撮影監督の映画批評

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
  1. --/--/--(--) --:--:--|
  2. スポンサー広告

『スティーブ・ジョブズ』(ダニー・ボイル)

(ネタバレあり)


この圧倒的な会話劇をどのように見せるか?

各発表会前の舞台裏の三部構成が、それぞれ発表会自体は見せないことで、発表会をゴールとする単線的な舞台裏の描写ではなく、常に発表会との緊張関係に置かれる。そのため観客は、それぞれに有名で、人によっては見たこともあるだろう実際の発表会の記憶なり知識(人によっては推測)を、ときに参照しながら見ることになる。つまり観客は、基本一対一の口論を見せられるだけではなく、発表会との二項表現として見るのである。

さらに、その場にはいないが、それを聞いているであろう/かもしれない人物を配する。舞台裏でスティーブ・ジョブズ(マイケル・ファスベンダー)にあいにくる人物はあとを絶たない。次の間で待っていたり、待たされたりする人物に、中の会話は聞こえているかもしれない。そのとき、観客は一対一の口論を見せられているのではなく、その口論が聞かれているかもしれないという二項表現として見るのである。

他にもジョン・スカリー(ジェフ・ダニエルズ)との会話シーンに顕著なフラッシュバックがそうである。観客は一対一の会話をフラッシュバックとの二項表現として見る。

ややもすると単調になりがちな会話シーンを、常にそこにはないものとの二項表現として見せ、観客を離さない。秀逸なのはこの三幕構成において、最後の第三幕に二項表現のバリエーションを見せることである。
第一幕でジョブズは、クリスアン(キャサリン・ウォーターストン)との面会に、ジョアンナ・ホフマン(ケイト・ウィンスレット)も立ち会えと説得するが、彼女は娘のリサと共に退席してしまい、結局クリスアンとの一対一の口論となる。再びジョアンナがノックするときには、すでに次の間にリサやアンディ・ハーツフェルド(マイケル・スタールバーグ)を含め、スタッフが居心地悪そうに待っている。遡及して二人の口論が、彼らに聞かれていたかもしれないという二項表現になる。
しかし第三幕でのジョブズは、会場でのスティーブ・ウォズニアック(セス・ローゲン)との口論に、スタッフがそこにいるジャーナリストを退席させようとするのを許さず、また、廊下でのリサとの口論では、そこにいるスタッフを追い払おうとするジョアンナを制し、それぞれ一対一の口論を、衆目の中で展開する。そのとき観客はそこにいる彼らと共に、まさにそこにいて一対一の口論を見るのである。




マノーニは、漁色家として知られたカサノヴァについてのあるエピソードを分析の対象としている。カザノヴァは、例によって、田舎娘をわがものにしようとした。彼は純朴な娘を騙そうと、権威ある魔術師の振りをしてみせたのだ。彼は魔術師の格好をして、地面に、「魔法の円」と称するものを描き、訳のわからない呪文を唱え始めた。と、そのとき突然、嵐になって、稲妻が轟音とともに光ったのである。これに驚いたのは、娘ではなくカザノヴァのほうであった。彼は、このタイミングで嵐になったのは、ただの偶然の一致であることをよく知っていた。が、彼は、あわてて、ほとんど反射的に、自分が描いた、嘘の「魔法の円」の中に飛び込んだのである。

大澤真幸 『不可能性の時代』



カサノヴァにとっての魔法の円が、ジョブズにとって獲るはずであったTIME誌のマン・オブ・ザ・イヤーであり、LISAがLocal Integrated Software Architectureの頭文字から名付けられたという由来であり、マカーだけでなく「いつのまにか」発した本人までをも呑み込んでいたという現実歪曲空間である。この「いつのまにか」の描き方/結構が、膨大なセリフ量の会話劇をドラマとして成立させている。




スポンサーサイト
  1. 2016/02/21(日) 16:49:16|
  2. 映画感想
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:0
<<『リリーのすべて』(トム・フーパー) | ホーム | 『キャロル』(トッド・へインズ)>>

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバックURLはこちら
http://pointbreak.blog66.fc2.com/tb.php/343-0d319587
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

著書

プロフィール

Author:中澤正行
撮影監督

主な作品
2006「天使の卵」
同年 第50回三浦賞受賞
2008「あの空をおぼえてる」

Follow Me on Pinterest

メールフォーム

お問合せはこちらから

名前:
メール:
件名:
本文:

全記事(数)表示

全タイトルを表示

最近の記事

最近のコメント

最近のトラックバック

FC2カウンター

ブログ内検索

RSSフィード

リンク

このブログをリンクに追加する

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。