撮影監督の映画批評

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『キャロル』(トッド・へインズ)

(ネタバレあり)

昨年、クエンティン・タランティーノ、J・J・エイブラムス、クリストファー・ノーランらが、EKのフィルム工場閉鎖を阻止したニュースがあった。力のある人にしかできないことを、ちゃんと力のある人がするハリウッドが羨ましい。(翻って自国では、FUJIのフィルム製造中止にフィルム製造中止に何もできなかった/しなかった)
一方でそんな彼らがフィルムによって撮影した映画に、フィルムである意味を見出すのが、なかなかに困難だというのもまた事実である。ヤヌス・カミンスキーは、「粒子がなければ、映像はデジタル的なものになる」というが、その粒子感ですらデジタルでシュミレートできてしまう今、35㎜やましてや70㎜では尚更その違いはわからない。
しかし16㎜フィルムで撮影された本作は、フィルムで撮影された意味を十二分に堪能できる稀有な一本である。フィルムで撮影されるたびに口にされるフィルムにしか出せない深み(そう言われれば、そう見えなくもないが...)というのが、今回ばかりは言い訳に聞こえない。

「それからソウル・ライターの作品も見ました。彼はストリートフォトグラファーですが、より画家に近い存在です。ライターの写真は抽象化することで不明瞭にされた層状の構図でできています。彼のイメージはファウンドオブジェクトや質感、反射(光)で満たされていて、対象物は部分的にしか見えません。このようなライターのアプローチを使うことで、私たちは表象的な世界観だけではなく心理的な世界観を見せようとしました。たとえば戸口に立つテレーズ(ルーニー・マーラ)を窓や反射を通して部分的にしか見せないように撮ったシーンがありますが、そうすることで彼女のアイデンティティがはっきり見えるようになっていると思います。これは彼女の恋心、内側の世界を見せるために用いた視覚的方法のひとつですね」

撮影監督が語るトッド・ヘインズの『キャロル』『エデンより彼方に』


撮影監督エドワード・ラックマンがそう語るように、キャラクターをストレートには見せない。反射や透過だけでなくフレーム内フレームがいたるところに施されている。それはテレーズ(ルーニー・マーラ)が、キャロル(ケイト・ブランシェット)を見られずに見るPOV、逆にキャロルがテレーズを見られずに見るPOVに顕著である。つまり一方的な視線には絶えず越えるべき障害(フレーム)があるとでも言うように。それがメロドラマ。

視線に越えなければならないフレームがいく重にも重ねられているのとは対照的に、キャロルの手はいとも容易くテレーズの肩にのせられる。
物語は冒頭とラストで現在の同じシーンを繰り返し、それにサンドイッチされて過去が回想されるのだが、その二度繰り返されるシーンでも、やはりキャロルの手はテレーズの肩に置かれる。一方彼女らの視線はと言うと、テーブルに向かい合って座っている二人の間に何もフレームはないにもかかわらず、彼女らの顔を見るには切返さなければならなく(ショット、リバースショット、それぞれにフレームが二人を隔てる)「見つめ合う二つの瞳を同時に画面にはとらええない」。しかも、冒頭ではテレーズの顔が奪われ、ラストではキャロルの顔が奪われている。つまり冒頭とラストをまたいで視点を変え、切り返しされている。無媒介に触れ合う手と肩とは異なり、視線は直接に交じり合わない。

では、ついにその障害(フレーム)が越えられた、二人が結ばれるシーンが、どのように描かれていたか?

キャロルの両手が鏡台前のテレーズの両肩にのせられ、二人の視線は鏡(フレーム)の中で遮られることなく見つめ合う。そこに切り返しは必要ない。手が肩に触れるように、視線が直に触れ合う。

ラスト、テレーズのPOVが時間を引き延ばすように、しかし徐々にキャロルに近づいて行き、キャロルがその視線に気づいて映画が終わる。そして二人の視線が無媒介に触れ合うのであろう余韻を残して。

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  1. 2016/02/16(火) 15:12:36|
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著書

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Author:中澤正行
撮影監督

主な作品
2006「天使の卵」
同年 第50回三浦賞受賞
2008「あの空をおぼえてる」

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