撮影監督の映画批評

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「いつのまにか」の描き方 映画技法の構造分析 番外編#6

ルールを破らずイマジナリーラインを越えるやり方は、前回述べた。そしてなぜイマジナリーラインを越えるべきかも。
今回は、越えるべき理由があり、越えるべきタイミングなら、ルールなど無視すればいいという話。

まずは『周遊する蒸気船』(ジョン・フォード)から。

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ドク・ジョン(ウィル・ロジャース)とフリーティ・ベル(アン・シャーリー)は最初反目しあっているのだが、ドクが彼女を連れ戻そうとやってきた男たちを撃退し追い払うと、2人の距離が縮まる。この決定的な契機をどのように描いているか。

男たちを追い払ったドクと、フリーティを、キャメラはひき画でとらえる。思わず彼女の味方をしてしまい戸惑うドク(a)
ドクを見つめるフリーティの単独(b)
もう一度、ひき画にもどり、気まずさに背をむけるドクをとらえる(c)
もう一度、彼女の単独。ここで唐突にイマジナリーラインが越えられている。音楽が流れ、ドクに近づく彼女(d)
今までとは真逆の異なる背景をもつひき画(e)

(c)から(d)へと、カットを跨いでイマジナリーラインが越えられている。つまり、イマジナリーラインの法則が破られている。
観客は、その直前に(b)のカットを見せられているので、それとは顔の向きが違う(d)のカットに唐突に繋げられると、一瞬何が起ったのかわからずドキッとする。イマジナリーラインを越えることで方向感覚を狂わされたのだが、その違和感はすぐさま同じ方向性のひき画(e)に繋げられ修正される。
その混乱が方角を見失ったことからくるものだと観客が気づく前にその方向感覚を回復させるので、アン・シャーリーの瞳/眼差しの効果だと観客は錯覚するのだ。

前回も述べたとおり、イマジナリーラインを越えると、見え方(背景、ライティング、顔の向き)が劇的に変わる。
そこでさらに観客を動揺させたいのであれば、ルールを無視すればいい。そして観客が気づかないうちに方向感覚を回復させてしまえばいいのだ。一瞬の侵犯。


つぎに『天使の卵』(冨樫森)
 
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たわいのない話で始まる横位置の2ショットから、文字通り180°異なる決定的な台詞「お姉ちゃんに何の用?」と問う夏姫(沢尻エリカ)のカットに、イマジナリーライン(180°line)を越えて繋がれる。その問いに動揺する歩太(市原隼人)のリアクションに切り返し、このシーンが閉じられる。

注目してほしいのは『周遊する蒸気船』の(d)とは異なり、イマジナリーラインを越えたカットが夏姫単独ではなく上手(カミテ)に歩太をなめている点である。これは撮影者である私が、単独ではやりすぎかとバランスをとった結果である。(怖じ気づいたともいえる)
つまり、上手に歩太をなめることで、それが観客の手がかりとなり、方向感覚の回復を容易にすることができる。結果、単独で見せた『周遊する蒸気船』よりも、観客の戸惑いは穏便なはずである。


最後に『男はつらいよ 望郷篇』(山田洋次))

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例のごとく勘違いした寅次郎(渥美清)が、実は横恋慕だったのだと気づいてしまう残酷な瞬間に、イマジナリーラインが越えられている。
しかし、イマジナリーラインを越えたカットは『周遊する蒸気船』のように寅次郎単独ではなく、『天使の卵』のように肩越しのクロースアップでもなく、逆側からのひき画である。方向感覚の回復は容易い。観客の混乱は最小限に抑えられているのだ。それでも効果的である。国民的人気シリーズであるがゆえの抑制だと思われるが、それがまた味わい深い。

以上のように、イマジナリーラインのルールを破ることで生じる方向感覚の狂いを、演出の効果として利用することができる。その効果には強度があり、位置関係から切り離された単独のクロースアップが最も大胆で、サイズを引いていくことでより穏便になることがわかる。
強度に違いはあれ、どれも一瞬の侵犯である。侵犯のあとは再びイマジナリーラインの法則に従うのである。イマジナリーラインを守っているから、越えることが際立つ。イマジナリーラインのルールを守らなければ、以上のような効果は期待できないのだ。

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  1. 2015/09/05(土) 21:20:14|
  2. 演出
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著書

プロフィール

Author:中澤正行
撮影監督

主な作品
2006「天使の卵」
同年 第50回三浦賞受賞
2008「あの空をおぼえてる」

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