撮影監督の映画批評

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「いつのまにか」の描き方 映画技法の構造分析 番外編#5

さて今回は、いよいよイマジナリーラインの法則について。
教科書的な説明なら次の動画がわかりやすい。



要はイマジナリーラインをキャメラが越えると、向かい合っているはずの2人が等方向を向いているかのように見えてしまい、観客の方向感覚を混乱させてしまうので避けましょうということである。

HOLIDAY#1

上図でいえば、上手にジュード・ロウ、下手にキャメロン・ディアスが座って向かい合っている。2人を結ぶようにイマジナリーラインが走り、その下半分の180°内であれば、どこから撮っても彼らの関係位置(上手にジュード・ロウ、下手にキャメロン・ディアス)は変わらない。
カットバックも構図逆構図上手方向を見るキャメロン・ディアス下手方向を見るジュード・ロウ)でとらえることができる。

しかし、キャメラがイマジナリーラインを越えると事情が変わる。イマジナリーラインを越えてジュード・ロウをとらえたカットは、上手にキャメロン・ディアスがいることを示し2人の位置関係が左右逆転してしまっている。そのジュード・ロウのカットとキャメロン・ディアスのカットをカットバックすると2人とも上手を見ていることになって、向かい合っているはずなのに等方向を向いているように見えてしまう。つまり構図逆構図のカットバックではなく、構図構図のカットバック(上手方向を見るキャメロン・ディアス上手方向を見るジュード・ロウ)になってしまう。

被写体と被写体を結ぶ視線だけがイマジナリーラインというわけではなく、始点と終点を結ぶ動線もまたイマジナリーラインである。「いつのまにか」の描き方 映画技法の構造分析 番外編#1でとりあげた『いま、会いにゆきます』(土井裕泰)が、まさに動線のイマジナリーラインを越えたがために観客の混乱を引き起こしてしまっている。行きも帰りも等方向に向かっているようにしか見えない。

117065a.jpg


ただこのルールは帰納的に導かれたものに過ぎなく、このルールに照らし合わせて現場で判断するという演繹的な考え方は、却って事態をややこしくするように思われる。つまり位置関係を守って撮影すれば、結果それはイマジナリーラインを越えていないのであって、位置関係を守るためにイマジナリーラインを越えないようにしようというのは、順逆が転倒している。
イマジナリーラインを云々するより、ひき画、エスタブリングショットに戻ればいい。ひき画の位置関係と同じように撮るだけでいいのだ。ひき画で上手側にいた人物の単独カットを撮るとき、その人物が上手側になるような位置にキャメラを置くだけでいい。もしその人物が下手側に位置するようなら、イマジナリーラインを越えているのだろう。それだけのことである。
動線の場合も同じ。ただひき画ではなくて、俯瞰したマップを持っていること。そのマップのどこに登場人物の自宅がありオフィスがあるのか。



イマジナリーラインの越え方のルールというのもある。まずはそれらを紹介してから、なぜ越えるのかについて解説したい。

1)登場人物を動かすことで、イマジナリーラインがキャメラを越える。

『チャンプ』(フランコ・ゼフィレッリ)から、再起を決めたビリー(ジョン・ヴォイト)が、反対するトレーナーのジャッキー(ジャック・ウォーデン)を説得するシーン。

ch.png

上図のように、まず、向かい合う2人をキャメラが壁を背負ってカットバックする。上手にジャッキー、下手にビリー。その2人の背景には騒々しい店内の様子が映し出される(C#1,2,3,4)
C#5で、ビリーがなぜか腰を浮かせ壁側に席をずれ、キャメラの前を横切る。このときイマジナリーラインもまたキャメラの光軸を横切り、結果キャメラはイマジナリーラインの逆側に位置することになる。つまり上下(カミシモ)が逆転する。上手にビリー、下手にジャッキー。
それ以降、敷きなおされたイマジナリーラインの法則に従い、今度はキャメラが店側を背負ってカットバックする(C#6〜13)


2)キャメラを移動させて、イマジナリーラインを越える。

『プロミスト・ランド』(ガス・ヴァン・サント)から

pl.png

次に『ホリデイ』(ナンシー・マイヤーズ)



そして『ヒート』(マイケル・マン)





1)も、2)も、カットの中でイマジナリーラインを越えている。イマジナリーラインの法則を、カットを跨いでイマジナリーラインを越えてはいけないと再定義すれば、これらはルールを破ってないことになるわけだ。


さて、なぜこうまでしてイマジナリーラインを越えなければならないのか。越えると何がちがうのか。

a)イマジナリーラインを越えると背景が変わる。
『チャンプ』の例を見てみると、背景が劇的に変わるのがわかる。前半は賑やかな店内の様子を背景にしてカットバックされるが(C#1,2,3,4)、イマジナリーラインを越えて以降、特にビリーは一面の壁を背景にカットバックされ、ビリーだけが際立つ(C#6〜13)。レストランという環境の中で話しているというカットバックから、2人が孤立し、特にビリーが引きこもるようなカットバックになる。
ジャッキーの反対を大人しく聞いていたビリーが、どうしても再起するのだと語るきっかけで、イマジナリーラインが越えられる。そのビリーにジャッキーは、協力せざるをえない。その説得力は、もちろんジョン・ヴォイトの演技によるものでもあるが、同時にイマジナリーラインを越えた効果でもある。
ビリーが座り位置をずらすことに、物語上の必然などない。これこそ純然たる映画の演出である。

b)イマジナリーラインを越えるとライティングが変わる。
『プロミスト・ランド』では、上図のとおりキャメラが移動し、2度イマジナリーラインが越えられる。それぞれの側で横位置の2ショットがあり、それらに顕著なのだが、片やキャメラが窓を背にした順光、片や窓を背景にしたシルエット(逆光)と、ライティングが全く違い、与える印象も異なる。
まず順光の側からカットバックされ、表向きの会話が始まる。町の有力者がスティーヴ(マット・デイモン)に対し、裏の話、つまりお金の話を仄めかすとイマジナリーラインが越えられ、逆光側のカットバックとなり裏の話が進む。強気のスティーヴが交渉をまとめると、再びイマジナリーラインが越えられ、順光側に戻りシーンが閉じられる。

c)イマジナリーラインを越えると上下(カミシモ)が逆転し、顔の向きが変わる。
『ホリディ』では、まず下手側のアマンダ(キャメロン・ディアス)が、上手側のグレアム(ジュード・ロウ)に一方的に質問する。グレアムが会社面接のインタビューのようだと言うように、インタビューのセオリーどおり、下手にインタビュアーであるアマンダ、上手にインタビュイーであるグレアムが位置している。
その役割が交替されると同時にキャメラはイマジナリーラインを越えて、下手にインタビュアー、上手にインタビュイーの定位置はそのままに、アマンダとグレアムの位置が入れ替わる。
「いつのまにか」の描き方 映画技法の構造分析 番外編#2でみたように、完全な左右対称の顔はないのだから、当然顔の左右で与える印象は異なる(”Left or Right”)。イマジナリーラインを越えると、登場人物の顔の向きが変わり、観客が主に見る顔のサイドが変わる。つまりサイドが変わることで、今までよく見えなかった一面が見えるということだ。


なぜイマジナリーラインを越えるかの理由に、単調にならないようになどといった説明をよく目にするが、さにあらず。以上の例が示すとおり、越えなければならない理由があり、越えるべきタイミングで越えられる。

『ヒート』では、話しかけてくるイーディ(エイミー・ブレネマン)を警戒するニール(ロバート・デ・ニーロ)が、よそよそしい態度をとっているあいだは、背中越しのカットバックで2人をとらえ、ニールが警戒心を解き、文字通り相手の懐に入り込むそのときにイマジナリーラインが越えられ、内側のカットバックで2人をとらえる。ニールが恋に落ち、後の彼の運命を変えることになる女性との出会いを、イマジナリーラインを越えることで見せている。

上のイマジナリーラインはすべて視線であるが、と同時に物語や登場人物のボーダーラインでもある。イマジナリーラインを越えることによって、物語や登場人物は別のフェーズを見せるのだ。
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  1. 2015/09/04(金) 09:34:07|
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著書

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中澤正行

Author:中澤正行
撮影監督

主な作品
2006「天使の卵」
同年 第50回三浦賞受賞
2008「あの空をおぼえてる」

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