撮影監督の映画批評

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「いつのまにか」の描き方 映画技法の構造分析 番外編#1

著書『「いつのまにか」の描き方: 映画技法の構造分析』に収録したかったのだが、動画の引用が必須であったため、何回かにわけて、ここで番外編として解説していきたい。

もう何年になるだろうか、大学と専門学校で撮影の授業を受け持っている。その導入として学生に「ピストル」と「人の横顔」と「馬」の画を描いてもらうのが恒例だ。別に彼らの画力を問うわけではないし、添削するわけでもない。ちょっとしたクイズのようなものである。これを読んでいるあなたも試しに描いてみてはどうだろう。

さて、それらは左右どちらを向いているだろうか。そのほとんどが左向きだと思う。
もちろんその時々で多少のばらつきはあるが、圧倒的に左向きの画が多い。大学では毎年100人以上の生徒が聴講しているので、その差は歴然である。
では、画家が描く肖像画はどうか。面白い統計がある。自画像では右向きが多く、他人、特に女性の肖像では左向きが圧倒的になる。レンブラントに限って言えば、自画像57点中、右向きが48点、左向きが9点であり、女性の肖像(被親戚)66点中、右向きが14点、左向きが52点だという。ここから導き出されるのは、自分に近いものは右向き、自分から遠いものは左向きに描かれるという傾向である。
また複数の人物が描かれる場合、右側に身分の高い人物を左向きに、左側に身分の低い人物を右向きに、配置する傾向があると言われている。これはテレビのゲストとインタビュアーの関係にも当てはまり、ゲストは右側左向き、インタビュアーは左側右向きに配置される。もちろん例外は多々あって、特に番組ホストの名前を冠したライブトークショーなどは、番組ホストが右側左向き、ゲストが左側右向きで、通常のケースとは逆になる。
(参考 鈴木武『街と都市の空間配置 -左右の位置の意味一』

自分から遠いもの身分の高いもの、つまり自分に相対するものを右側左向きに配置する傾向があるということ。この伝でいうと、番組ホストが右側左向きに位置するのは、ゲストよりもゲストに相対するホストのリアクションを見たい/見せたいのだと解釈できる。

と、とりあえずこのような傾向があることを頭に入れてもらい、次に「教室の真ん中より右側に座っている人は手をあげてください」と唐突に訊ねる。すると、生徒たちは一様に手をあげるべきか否か戸惑い顔になる。もちろん私の言う右側が、私から見て右側なのか、彼らから見て右側なのかが判然としないからだ。
右だの左だのという指示は、話者と聞き手が等方向を向いていない限り、そこに誤解が生じてしまう。そのような混乱を避けるため撮影現場では、キャメラから見て右を上手と呼び、左を下手と呼ぶことになっている。これは客席から見て舞台の右を上手、左を下手と呼ぶ演劇の慣習に由来するものである。

別役実の演劇教室 舞台を遊ぶ』で著者は、「目に見えない空間の癖」のようなものが舞台には存在し、「舞台には上手から下手に風がゆるやかに吹いている」と述べている。これはそのまま映像にも当てはまる。

走るだけの人物を、いろいろなサイズで撮影したカットをそろえて、動きの方向を統一したものと、カットごとに方向を変えたもののふたつを見比べる実験です。フィルムの長さは両方とも同じにします。
これを映写して見比べると、同一方向の動きにまとめたフィルムのほうが、あきらかに三分の一ほど短く感じられたものです。
次に、右から左に方向が統一されたもののほうが、左から右のものより短く感じます。そして、方向性を逆に取り混ぜたものが、一番長く感じるのです。
富野 由悠季『映像の原則―ビギナーからプロまでのコンテ主義』



と、このように舞台であろうがスクリーンであろうが、上手から下手に風が吹いていて、観客には追い風になる上手から下手の動き(順路)の方が、向かい風になる下手から上手への動き(逆路)よりも速く感じられると結論づけられる。

『スーパーマリオブラザーズ』に代表されるような横スクロール型のゲームでは、プレイヤーキャラクターのほとんどが向かい風(逆路)の方向性、つまり下手から上手に動く。ゲームという性格上、敵に立ち向かいクリアしていくわけだから、向かい風がふさわしいだろうし、プレイヤーキャラクターは、まさに自分に近いものであるわけで、自画像に右向きが多いように上手向きであっていい。上手に相対する敵キャラクターは、プレイヤーにとってまさにゲストである。

ここでようやく映画の話になる。まずは『オールド・ボーイ』(パク・チャヌク )。主人公のオ・デス(チェ・ミンシク)がハンマー片手に単身殴り込みにいくシーンを見てみよう。動画にはスパイク・リーによるリメイクの同シーンが収められている。

oldboy.png




オ・デスを横移動でフォーローするこのショットは、もちろんセットでなければ(壁を壊さない限り)撮影できない。つまりセットであるのだから、進行方向は上下(カミシモ)でも下上(シモカミ)でもどちらでも可能であるが、下手から上手への向かい風(逆路)の方向が採用されている。
これは横スクロール型ゲームの理屈と同じと考えていいし、むしろ横スクロール型ゲームのイメージで撮影されたシーンではないだろうか。
そのリメイクであるスパイク・リー版では、その逆、上下(カミシモ)の追い風(順路)で撮影されている。役者もセットも全く違うので、ニュアンスの違いを即方向の違いにつなげるのは無理があるが、参考にはなると思う。


次に『汚れた血』(レオス・カラックス)の名シーン。

汚れた血



これも下上(シモカミ)の向かい風(逆路)で撮られている。もがくように疾走し、ときにフレームからはみ出そうになるこの動きには向かい風がふさわしい。


そして『フランシス・ハ』(ノア・バームバック)。

フランシス・ハ



この『汚れた血』のオマージュは、オリジナルと進行方向が逆である。ここにはもはやアレックス(ドニ・ラヴァン)の身悶えはない。描かれるのは、上下(カミシモ)の方向、文字通り追い風に乗って走るフランシス(グレタ・ガーウィグ)の軽やかさである。


次に『時をかける少女』(細田守)のケース。踏切のある商店街の坂道が、どのように描かれているか見てみよう。

時をかける少女
時をかける少女2


ご覧のとおり、坂上が上手、坂下が下手で描かれている。上るのに抵抗がある上手への動きは、向かい風(逆路)。勢い良く転がり落ちる下手への移動は、追い風(順路)。
アニメであるからセット撮影の『オールド・ボーイ』と同じく実際の環境に左右されることはない。左右になにを配置してもいい、左右どちらに動かしてもいいときに、上記の傾向を知っていれば迷うことはない。


『いま、会いにゆきます』(土井裕泰)から

fig1.png
117065a.jpg

fig2.png


上が、巧(中村獅童)がオフィスに向かう朝の描写。下が、帰宅する同じ日の午後の描写。どちらも同じ橋の上で、登下校する女子学生とすれ違う。
行きは、女子学生に追い抜かれ、帰りは、雨が降るとわかって高揚する巧が逆に追い抜くという演出はいい。
しかし、その撮り方がよくない。どちらも上下(カミシモ)の方向で描かれているので、日替って翌日の朝の光景かと観客が混乱してしまう。もちろん程なくそうでないとわかるのだが、この混乱は観客にとって全くのノイズでしかなく、ない方がいい。
ではなぜそのようなことになったかと言えば、真ん中のイラストを見てもらえばわかるように、キャメラが動線というイマジナリーラインを越えて上手下手を反転させてしまったからだ。
キャメラカーで並走して撮影しているため、同じ車線を逆走できず、やむなくこのようになったのかもしれない。そうだとしても、そうまでして撮った演出が、ノイズに掻き消されて観客に届かないようでは本末顛倒である。


最期に『スノーピアサー』(ポン・ジュノ )。



台詞に頼らず主人公の選択をどう見せるか?その答えがこのビデオエッセイのタイトル”Left or Right”である。
『スノーピアサー』では、下手(Left )が列車後方、上手(Right)が列車前方で、主人公は下手から上手(逆路)に進んでいく。そして主人公が下す全ての決断は、上手か下手かの選択として表現されている。


今回は、主に人物の動きについて解説した。次回は、人物の配置についてふれたいと思う。


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  1. 2015/08/26(水) 17:19:16|
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著書

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中澤正行

Author:中澤正行
撮影監督

主な作品
2006「天使の卵」
同年 第50回三浦賞受賞
2008「あの空をおぼえてる」

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