撮影監督の映画批評

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「たそがれの女心」(マックス・オフュルス)

 何を売ろうかと迷ったあげく最もいらないものとして選んだはずの耳飾りが、呪物的な意味合いを帯び、そのルイーズ(ダニエル・ダリュー)をして執着させ破滅へと導く。
 なぜか?
 すがりつく価値のないものにこそ、すがりつくにたる価値を見いだせるからである。
 盗難騒ぎで宝石商から耳飾りを買い戻したアンドレ(シャルル・ボワイエ)は、愛人ローラとの別れ際にその耳飾りをプレゼントする。それは、あとでルイーズが旅立つとき正確に反復されるのと同じく列車のコンパートメントでのことだが、そこでその客室番号13という数字を幸運の数字だとローラに告げる。コンスタンチノープルのカジノで、ローラはその13という数字に賭け続け、耳飾りを手放したうえに破産する。この13という数字への執着は、むろんアンドレの言葉によるものだが、その言葉に信憑性など欠片もあるはずはなく、それはローラも当然承知している。それでも13という数字に執着するのは、逆説的ながらそれが幸運の数字である信憑などあるはずがないからこそである。
 このローラの13(アンドレの言葉)への執着による破産は、ルイーズの耳飾り(ドナティ男爵の贈り物)への執着による破滅を正確に予告している。

 耳飾りの効果は、嘘をつかせること。あらゆる嘘がつかれる。ルイーズだけではない。アンドレもまた、宝石商から買い戻したにもかかわらず、なくしたフリをするルイーズに知らないフリをするのだし、ドナティ男爵(ヴィットリオ・デ・シーカ)もまた、税関に引き止められているフリをする。
 それでもやはりルイーズの嘘には及ばない。ルイーズは、耳飾りを形見分けでもらったとアンドレに嘘をついたと、ドナティ男爵に嘘をつく。二重の嘘。
 愛の言葉でさえも、「愛していない」になる。
 何が嘘で何が嘘ではないかは、観客にはわかる。しかし、なぜか観客にだけ知らされないのが、原題でも伏せられているルイーズの姓氏である。名乗りの瞬間に必ず邪魔が入ったり、ネームカードがナプキンで隠されていたり、徹底して知らされない。



 ルイーズ自身が宝石商から耳飾りを買い戻す際に次のように言う。
 身につけるために買い戻すのではなく(夫から)隠すためだと。

 「丹下左膳餘話 百萬両の壷 」(山中貞雄)は、耳飾りではなく「こけ猿の壺」に翻弄される人々の話であるが、ラスト、柳生源三郎(沢村国太郎 )はやっと手に入れた「こけ猿の壺」を丹下左膳(大河内傳次郎)に当分預けておくと言う。なぜなら、壷が見つかれば浮気ができないから。
 そう、百萬両を手に入れるために壷を見つけたのではなく(奥方から)隠すためだと。
  
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テーマ:映画感想 - ジャンル:映画

  1. 2008/10/15(水) 18:09:18|
  2. 映画感想
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:2
<<「丹下左膳餘話 百萬兩の壺」(山中貞雄) | ホーム | 「あぁ、結婚生活」(アイラ・サックス)>>

コメント

「たそがれの女心」批評、面白かったです。山中監督の丹下左膳、確かに。どちらも全体を軽い感じが流れているのがいいですよね。オフュルスのは思い返すとそれがかえって怖いですが。
  1. 2009/08/01(土) 01:05:46 |
  2. URL |
  3. cinemule #-
  4. [ 編集]

>cinemuleさん
コメントありがとうございます。
なにかをめぐって物語が動くのにもかかわらず、その中心のなにかは、なにほどのものでもない。
マクガフィンというやつですが、最近「荒野のストレンジャー」(クリント・イーストウッド)を観て、(ルイーズの姓氏のように)これも主人公自身が名無しで、尚かつ幽霊であって、実がないのです。
「たそがれの女心」や「丹下左膳餘話 百萬両の壷」のモノではなくて主人公がそれというのが凄くないですか?オススメです。

  1. 2009/08/02(日) 21:00:39 |
  2. URL |
  3. NAKAZAWA #-
  4. [ 編集]

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中澤正行

Author:中澤正行
撮影監督

主な作品
2006「天使の卵」
同年 第50回三浦賞受賞
2008「あの空をおぼえてる」

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