撮影監督の映画批評

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「春の日は過ぎゆく」(ホ・ジノ)

 DVDにて再見。
 出会いから別れ、そしてその受容まで、その何を描き何を描かないかという取捨選択が的確。中でも後半そのほとんどを費やしている別れに至る行違いの描写が秀逸。

 二人の別れをその遥か以前に用意するものは何か?
 お墓を見ながらウンス(イ・ヨンエ)は、「死んだらあんなふうに同じお墓に入ろうか?」とサンウ(ユ・ジテ)に聞く。しかしサンウは何も答えず、ウンスを抱き寄せはぐらかしてしまう。二人を背後から捉えている為、その表情はよくわからない。つづく河原のシーンで、一人佇み歌を口ずさむウンスにマイクを向け見つめるサンウ。微かに別れの予感。なぜか?
 サンウがウンスを見つめているからだ。もちろんこれまでもサンウがウンスを見つめることはあった。しかし惹かれ合う二人に優勢であったのは、ウンスがサンウを見つめる描写。こののちこれが逆転するその嚆矢になる。しかもウンスは途中、サンウの視線に気づきサンウを一瞥するが、曖昧な笑みを残し視線を外す。
 さらにつづくシーンで祖母から祖父を奪った女が訪ねてきて、祖母が塞ぎ込む。祖母の存在は、サンウの経験を先取りしつつ並行させてあるのだから、ここでの不穏な描写に意味がないわけがない。
 つまりウンスはサンウが答えなかったことで、先行する内的な対象喪失を経験した。もちろんこれは、この先の展開から遡及してしかわからない。しかし後から遡ってそうだと言える描写になっている。
 この内的な対象喪失の経験を、経験したウンス自身が気づいていない。換言すれば、違和感程度にしか感じていないということだ。だから確かに経験していながら、その時点ではそう名指すことができない。しかるべき時から遡ってしか名指しえない。別れ(外的な対象喪失)に遥かに先立つ内的な対象喪失とは、そのような経験のことである。
 そんな登場人物にすら意識されない微細な変化を、如上のように視線のベクトルの逆転と祖母の描写で、観客にも同じく遡及して気づかせるよう仕掛けが施されてある。

サンウ「キムチ作れる?」
ウンス「もちろん」
    中略
サンウ「恋人を紹介しろって、父が」
ウンス「・・・私、キムチ漬けられない」
サンウ「僕が漬けるよ、僕が漬けるから」
 
 父親に恋人を紹介しろと言われたと告げるサンウに、押し黙るウンス。役割を入れ替えれば、ウンスが同じお墓に入ろうか?と問い、それに答えなかったサンウと、そっくり同じやりとりである。
 漸うウンスは、はぐらしつつも答える。ウンスは言葉にすることで、自らの内的な対象喪失に気づいてしまったのだ。予期された対象喪失。
 つづくシーンがこれを補強している。ウンスは、音楽評論家に消火器の使い方を聞く。かつてサンウにもそれを聞いた。言葉にすることで、確かな逃れえないものにするウンス。
 しかし、それでもなお意識化されてしまった内的な対象喪失に抵抗するウンス。気づいてしまったことを認めたくない。その最後のあがきが、酔って泣きながらすがりつくウンスだ。なぜ私の気持ちは離れていってしまうのか。
 一夜明けたウンスは別人だ。内的な対象喪失の心理を終えてしまった女性が、そこにいる。

 主人公はサンウであり、彼のリアクションにこそ感情移入もし、いたたまれない気持ちになる。我々が予測できる範囲でのリアクションでなければ、共感などできない。我々が感情移入できるキャラクターとは、しばしばそのようなわかりやすさを根にする。
 であるから、サンウのリアクションにこそ心動かされるのだと承知していながらも、特筆すべきはそのリアクションを引き出すアクションとしてのウンスなのだ。ウンス演じるイ・ヨンエが本当に素晴らしい。
 
 DVDの特典映像には、東京国際映画祭時のティーチインの様子が収録されている。
 そこでイ・ヨンエは、次のように言う。

(ラストの桜並木、二人の別れ)
ウンスは後ろ姿だけど正面はどうだったのか。彼女の正面の姿を想像してみてください。それが皆さんの本当の姿かもしれません。過去かあるいは未来のね。


  
 
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テーマ:DVDで見た映画 - ジャンル:映画

  1. 2008/10/01(水) 17:48:40|
  2. 映画感想
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著書

プロフィール

中澤正行

Author:中澤正行
撮影監督

主な作品
2006「天使の卵」
同年 第50回三浦賞受賞
2008「あの空をおぼえてる」

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