撮影監督の映画批評

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「生きるべきか死ぬべきか」(エルンスト・ルビッチ)

 DVDにて再見。
 映画は、ドイツ軍侵攻前のワルシャワに突如としてヒトラーが現れるところからはじまる。
 程なくそれは、王様は裸だと指摘するかのごとく、子供にサインをねだられヒトラーに扮した役者だと知れる。オープニングのシーンが物語るように、本物と偽物(オリジナルとコピー)をめぐる話。
 もちろんそれ自体は珍しい話ではない。偽物が本物をなぞる話など掃いて捨てるほどあるだろう。現にこのオープニングも、ブロンスキーという役者/偽物が、ヒトラー/本物をコピーしている。しかしこの映画が真に痛快なのは、本物が偽物をなぞる顛倒が描かれているからである。

1)シレツキーを暗殺するため、滞在するホテルにエアハルト大佐の使いを装いシレツキーを誘い出す。
(シレツキー=本物、エアハルト大佐の使い=偽物)
2)偽のゲシュタポ本部を劇場に急拵えし、ヨーゼフ・トゥーラ(ジャック・ベニー)はエアハルト大佐に扮し、シレツキーを迎え暗殺。しかし重要書類はホテルにまだある。
(シレツキー=本物、エアハルト大佐=偽物、ゲシュタポ本部=偽物)
3)ヨーゼフは次にシレツキーに扮してホテルに乗り込み、書類を処分するが、今度は本物のエアハルト大佐の使いがやってきて連れ出される。
(シレツキー=偽物、エアハルト大佐の使い=本物)
4)本物のゲシュタポ本部で、本物のエアハルト大佐(シグ・ルーマン)がシレツキーの偽物を応対する。
(シレツキー=偽物、エアハルト大佐=本物、ゲシュタポ本部=本物)

 1)と3)、2)と4)で本物と偽物がきれいに反転している。この目眩く入れ替わりにも陶然とさせられるが、とどめは本物が偽物をなぞるそれである。
 ヨーゼフらは偽物であって、当然本物をなぞる。しかし、自らがオリジナルであるはずのエアハルト大佐本人までが、ヨーゼフが演じたエアハルト大佐の偽物をなぞるのだ。

 本物のシレツキーの死体と対面させられるヨーゼフ扮する偽物のシレツキー。その窮地を本物に偽物をなぞらせることで脱する。ヨーゼフは、本物のシレツキーの死体から髭を剃り落し、付け髭をさせ、本物に偽物をなぞらせたのだ。実に痛快。

 コピーのオリジンであるはずのものが、自身のコピーのコピーになっている。そこにはもうコピーしかない。それをただ1人で体現する人物がいる。それがマリア・トゥーラ(キャロル・ロンバード)という唯一の女性だ。
  
ヨーゼフ「今夜の客は冷たい」
マリア「そうかしら」
ヨーゼフ「芝居に乗れないのは喧嘩のせいだ。仲直りを」
マリア「そんな舞台の袖で観てたけどよかったわ(後略)」
ヨーゼフ「今朝は悪かった。ドボシュに頼んでおいたよ、君の名をトップにしろと」
マリア「(喜んで)優しいのね、どうでもいいのに」
ヨーゼフ「では今のままに」
マリア「(再び不貞腐れる)」

ソビンスキー中尉(ロバート・スタック)から手紙を受け取り読むマリア
メイド「何を言ってるの?」
マリア「少しだけでも会いたいって、その気はないわ。でもかわいそう。切符を買ってくれたお客を無視できないもの」
メイド「言い訳はいいから会ったらどうなの」

 熱烈なファンであるソビンスキーは、新聞の記事を真に受け、マリアの言葉も言葉のまま受け取り、マリアに求婚するが、当然マリアにその気はない。彼女にとって言葉の意味=オリジンなどないからだ。彼女にとって言葉は次の言葉を接ぐものくらいの意味しかない。だから愛しているかと聞かれるマリアは、双方にもちろんだと答える。彼女にとってそれは、否定する理由がないことでしかない。確乎としたオリジンとなる想いがあって、それが言葉にコピーされるわけではない。 
 オリジナルを信じる男たちは皆、何かを演じる。しかし映画を通してマリアだけは、マリア・トゥーラ自身を演じているだけである。
 
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テーマ:DVDで見た映画 - ジャンル:映画

  1. 2008/09/30(火) 01:38:44|
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著書

プロフィール

中澤正行

Author:中澤正行
撮影監督

主な作品
2006「天使の卵」
同年 第50回三浦賞受賞
2008「あの空をおぼえてる」

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