撮影監督の映画批評

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「この自由な世界で」

この自由な世界で

 (ネタバレあり)
 公式サイトのインタビューで、脚本のポール・ラバティはタイトル「この自由な世界で(原題 It's a Free World...)」について次のように言っている。

英語ではこんな言い回しがある。例えば友達との会話の中で、「私は?をする」と言うと、友達がこう答える、「それはするべきじゃないと思うけど、ここは自由な世界だから好きにすれば(But it’s a free world, do what you want.)」という具合に。あたかも人がとる行動は、何にも影響を及ぼさないかのようだ。だけど、僕たちが映画のなかで見せようとしているのは、自身の行動には何かしらの結果がつきまとうということなんだ。


 つまり、無関心/無関係でいる言い訳として。
 だから映画は、アンジー(キルストン・ウェアリング)がどのようにして労働許可を持たない移民労働者に対して無関心/無関係であることをやめるかを描く。
 だがアンジーにとって彼らへの無関心をやめることは、即ち違法行為に手を染めることである、そう容易くできることではない。映画はアンジーに寄り添い丁寧にその葛藤を描いていく。
 にもかかわらずその一線はいとも呆気なく越えられる。
 その契機は、足繁く通う一人のイラン人労働者に声をかけるそれである。

 交差点に佇むイラン人労働者が頭を抱え込むのを、カメラはロングで捉える。
 そこにアンジーのバイクがフレームインして、イラン人のところに横付けされ、何らかの会話が交わされた後、イラン人をバイクの後ろに乗せる。
 アンジーの変節=映画のターニングポイントが、ただ引いたロングの画で見せられるだけなのである。なぜか?
 
 それを説明するには、呼応するもう1つのシーンを検討しなければならない。
 そのシーンとは、アンジーと共同経営者のローズ(ジュリエット・エリス)が、斡旋する労働者の為にトレーラーハウスを求めるそれである。
 雨の降る中、車でやってきた二人は、トレーラーハウスがすべて埋まっていることを知らされる。困ったアンジーは、移民局に退去させるよう電話を入れる。その車のフロントガラスごしに見られるのは、あのイラン人家族の娘たち。
 ここでのアンジーの決断は、フロントガラスというスクリーンを通してなされる。フロントガラス越しの、イラン人少女ら移民家族の暮らすトレーラーハウスの光景は、アンジーにとって「a free world」でしかない。関係ない、距離がある、つまり観客と視点を同じくしている(POV)。
 
 先程の問いに戻ろう。アンジーは、頭を抱えるイラン人を「a free world」として見過ごすことができなかった(車のように、フロントガラスというスクリーンをもたない/隔離された空間をもたないバイクに乗っていることに注目)
 つまりこのシーンを「a free world」として見ているのは観客である。観客をアンジーと同じ視点に立たせることはできない。なぜなら、映画は「a free world」でしかないからだ。

 映画がどれだけ声高に問題提起しても、所詮観客にはスクリーンの先の「It's a Free World...」でしかないが、観客が「It's a Free World...」というようにしか映画を見ていないということを告発することはできる。
 

 
 
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テーマ:ミニシアター系 - ジャンル:映画

  1. 2008/08/22(金) 17:50:50|
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著書

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中澤正行

Author:中澤正行
撮影監督

主な作品
2006「天使の卵」
同年 第50回三浦賞受賞
2008「あの空をおぼえてる」

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