撮影監督の映画批評

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「カンナさん大成功です!」と「愛しのローズマリー」や「好きと言えなくて」または「ラブソングができるまで」




 容姿の美醜をめぐるストーリーほど、行き着く先が知れているものはなく、誰もが、人は見た目じゃなく中身だよと落ち着く事を承知で観ている。現実がそうではないことを身をもって知っている(あるいは知りたくない)観客は、結末がそうなることを知っているからこそ観に行くのだ。(そう、私のこと・・・)

 カンナさん(キム・アジュン)の、特殊メイクは「愛しのローズマリー」のグウィネス・パルトロウを髣髴させる。「愛しのローズマリー」も容姿をめぐる話ではあったが、心の美しい女性ほど容姿が美しく見えてしまうという催眠術をかけられた男(ジャック・ブラック)を主人公としたものだった。
 人気歌手の歌を吹き替るカンナは、これも容姿に自信がないラジオ・パーソナリティーの女性(ジャニーヌ・ギャロファロ)を主人公とする「好きといえなくて」を髣髴させる。どちらも視覚に頼らない声という要素を巧く取り入れている。
 音楽業界という設定、大団円のステージなどは、これもラブコメディの傑作「ラブソングができるまで」を髣髴させる。


 「カンナさん大成功です!」がストーリーとして秀逸なのは、主人公の設定それ自体が強力な感情移入装置になっているからである。なぜか?
 デブでブスのカンナさんで、そのパーソナリティーを知らされている観客は、かつてデブでブスであったカンナさんを絶えず参照し補完しながら、全身整形後のカンナさん=ジェニーを観なければならない。
 かつてデブでブスであったカンナさんだからこそ、その行動の説明がつくというエピソードが連ねられる。
 観客に負荷をかけているのである。つまりその都度かつてデブでブスであったカンナさんを経由しなければ、シーンが理解できないように構成されているのだ。観客は、ジェニーをあのカンナさんと「見立てる」ことでストーリーを理解していく。
 もちろん理解といっても、決して難しいことではなく、何気なく観ていても解る程度である。そこがポイントで、適度な負荷でなければならない。負荷とも感ぜられないほどの。
 そう、その負荷を観客は能動的に処理する。能動的にストーリーを読み進む事。それが即ち感情移入であると言うことに飛躍があるだろうか。
 ジェニーの中にあのカンナさんを見る観客は、あのカンナさん目線で観ようとする観客は、すでに十分感情移入している。

 

 カンナさんとジェニーとの乖離が、ラスト、収束するにあたってカンナさん=ジェニーは歌う事はない。なぜか?
 物語レベルで、人気歌手のコンサートに来ている観客は、よもやカンナさんが裏で歌を吹き替えてるとは思ってもいない。それを知らされているのはこの映画の観客である我々である。
 劇中のコンサートの観客より、多くを知っているこの映画の観客である我々も、翻ってカンナさん=ジェニー演じるキム・アジュンの歌が吹き替えられているかどうかまでは知らされていない。
 公式サイトによれば、キム・アジュン本人が吹き替えなしで歌っているそうなのだが、それ自体「整形していないこと」が主役の条件であったというエピソードと同様、この作品にまつわる話であればこそ眉唾物である。いや、むしろ眉唾物であるべきだし、相応しい。
 しかし、事の真偽は関係ないのだ。つまりカンナさん自身の歌が吹き替えではないのかという疑いにまで至るということが重要なのである。(もちろん劇中のコンサートの観客同様、疑いもしない観客であるほうが楽しめるのかもしれないのだが)
 

 人気歌手とそのゴーストシンガーという別個の登場人物が、ジェニー=カンナさんという分裂した一個の人格にシフトする。つまり一個の人格でありながら、依然カンナさんはジェニーのゴーストシンガーを演じている。そのカンナさんが自身のゴーストシンガーであることをやめて、カンナさんとして再統合するのだから、(吹き替えではないらしいのだが)吹き替えかもしれないという疑いをもたれているかもしれない歌を歌わせないのは正解なのだ。
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テーマ:カンナさん大成功です! - ジャンル:映画

  1. 2007/12/17(月) 19:54:57|
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著書

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中澤正行

Author:中澤正行
撮影監督

主な作品
2006「天使の卵」
同年 第50回三浦賞受賞
2008「あの空をおぼえてる」

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