撮影監督の映画批評

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「96時間」(ピエール・モレル)

 ブライアン(リーアム・ニーソン)の抑制された物腰が、最高にカッコいい。元秘密工作員だからなのだろうか、ピンチにも動じない。躊躇もない。
 なぜ我々観客は我々とは程遠いブライアンに共感するのか。
 娘キム(マギー・グレイス)への父性愛に?そうかもしれないし、それは正しい。しかしそれは疑似餌ではないだろうか?

 ブライアンは、娘の友人とのパリ旅行の許可を危険だからと与えなかった。娘には泣いて立ち去られ、離婚した妻レノーア(ファムケ・ヤンセン)からは詰られ、仕方なく条件つきで許可する。しかし、その条件である到着時の連絡すらなされない。電話しても通じず、心配でレノーアに電話しても取り合ってもらえない。自宅のソファに体を沈めるブライアンの脳裏に何が横切るだろうか?
 
 この後起ること全て、一言で言うことが出来る。「ほら、みたことか」
 そう認めたくはないが、我々はこれに共感するのではないだろうか。
 だからこそ、ブライアンは表情一つ変えずにその処理をこなしていく。なぜなら「ほら、みたことか」と言わずに、そうわからせることほど小気味良いことはないからである。
 ブライアンの仲間が解析した誘拐犯の恐ろしさを、わざわざスピーカーフォンでレノーアに聞かせる理由はここにある。
 ブライアンを蔑ろにしたことで、支払わなければならないツケがどれだけ甚大であることか、しかもそのツケを何も言わずブライアンが返していく。

 「あらかじめ言ったことだ」ではなく、「言わんこっちゃない(言わないことではない)」とわざわざ緩叙法(二重否定)で言う気分は、ブライアンが返していくツケの甚大さ加減と呼応している。
 

  [「96時間」(ピエール・モレル)]の続きを読む
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テーマ:映画感想 - ジャンル:映画

  1. 2009/09/20(日) 22:01:00|
  2. 映画感想
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「クリーン」(オリヴィエ・アサイヤス)

 エリック・ゴーティエによる撮影がすばらしい。(本作にてカンヌ 国際映画祭 撮影賞受賞)
 エリック・ゴーティエ自身によるオペレートかどうかは知らないが、このタイトなフレームでの正確なパンニングに舌を巻いた。もちろんそのパンニングの振り付け=演出が秀逸なのだが。
 この頻出するパンニングをズーミングに置き換えると、ポール・グリーングラスによるボーンシリーズのキャメラワーク及び編集に驚く程似てくる。例えばエミリー(マギー・チャン)に会いにレストランへと向かう義父のアルブレヒト(ニック・ノルティ)の描写などは、もうまさしくそれであってマット・デイモンが演じればそのままジェイソン・ボーンである。
 
 (ネタバレあり)
 エミリーが夫リーとケンカするシーンでも、タイトなフレームが縦横にパンされカットでリズムを刻むのだが、途中成瀬のように突然キャメラは外に出て引きの画でモーテルの一室を闇から浮き立たせる。振り回されるタイトな画の連続に不意に入り込む静謐な引き画。
 そのあとエミリーは一人埠頭へと車を走らせヘロインをうち、車中で夜を明かす。その夜明けの冷たいブルー。
 この暖色から寒色へのコントラストはそのまま後の中華料理屋での雑然とした店内からバックヤードを通り抜けドラッグを吸う地下駐車場の冷たいブルーへと反復される。

 動物園で息子を見失い途方を失っていると、息子が戻ってくる。息子はおそらく自ら立ち去ったのだが引き返して来たのだ。その息子の描写は一切ない。しかし我々観客はそれを埋めることができる、なぜか。
 そのシーンに先だって我々は、義父と待ち合わせたエミリーが息子が会うのを嫌がっていると聞いて一度はその場を立ち去るが、思いとどまり引き返すというシーンを観ているからである。オンとオフで反復される引き返すということ。

 ラスト、遅れて来た悲哀がエミリーを襲うのだが、そこでアサイヤスはエミリーの見た目であるコーヒーだけを単独でインサートする。全く意味のない静物カット。意味のないカットをインサートすることに意味がある。時。そのカットののちエミリーは嗚咽する。
 つづけてバルコニーに出るエミリーをキャメラが受けてフォーローパンし、送り込んだのちにそのままエミリーをリリースして景色へとパンニングしつづけ映画が終わる。
 そのフォローパンのエミリーを受け送り込む間際に、微かに顔が綻ぶのを我々は決して見逃さない。決して見逃さないのにもかかわらず、見逃さなかったことは奇跡としかいいようがない。それが映画ではないだろうか。
 
  [「クリーン」(オリヴィエ・アサイヤス)]の続きを読む

テーマ:映画感想 - ジャンル:映画

  1. 2009/09/18(金) 22:32:33|
  2. 映画感想
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著書

プロフィール

中澤正行

Author:中澤正行
撮影監督

主な作品
2006「天使の卵」
同年 第50回三浦賞受賞
2008「あの空をおぼえてる」

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